では、どうしてそんなに腸内フローラすなわち腸の健康が大事なのでしょうか?

私が「腸管免疫」という言葉を聞いて、興味を持ち始めたのは今から約5年ほど前のことでした。私は獣医師ではありませんが、基礎の薬学の研究者としていろいろな大学の先生と交流を持っていました。

ある時、仲良くしていた某医学部の解剖学の研究者と話をしていた時のことです。
その先生は「僕の実験では、マウスに色々な栄養素を与えると、その刺激で腸管免疫が反応するんだよ。」と言っていました。
それまで、私は「免疫」といえばもっぱらT細胞などによって血液中で繰り広げられる反応だと思っておりましたので、消化管で反応する免疫にとても興味を覚えたのです。

そこで、しばらく私はその先生の教室に通って「腸管免疫」について色々教えてもらうことにしました。そこでは、実際にマウスに色々な栄養素を与えて、腸管(特に空腸や回腸)にある「パイエル板」という免疫細胞が集まっている部位を顕微鏡で細かく観察していました。

ここまでの腸管免疫についてのことをもう少し簡単にまとめると、こういうことになります。
私たちは日々たくさんの種類の食べ物を口から取り入れています。
その食べ物は胃から腸へと運ばれますが、この腸管でまず腸内細菌(善玉菌)が食物をさらに細かく消化・吸収できるように助けます。

その後、そのある種の食物成分が腸管を刺激するとIgAといった免疫を強化する物質が腸管内に分泌されます。
さらに、腸管の内側にドーム型をした「パイエル板」という免疫細胞の集合体のようなものがあって、これが食物成分によって刺激されると、マクロファージ、NK細胞、T細胞、B細胞といった免疫細胞が活発に動き出すのです。

つまり、食べ物とお腹の健康が「免疫」にとても深く関与していることがわかってきたのです。

私は実際に(腸管組織を免疫染色したサンプルを)顕微鏡で観察して、ドーム型のパイエル板やその周辺に集まってくるNK細胞などを見ることができました。

また、本当に(!?)与える食物成分によってこれらの腸管免疫の反応が異なっていたのです。