●耳血腫

耳介に血液や漿液がたまってふくれ上がります。やや熱を持ち、軽い痛みがあるらしく、犬は耳に触られるのを嫌がります。
片耳だけに現れることが多いのですが、両耳に同時に症状が現れることもあります。

耳の打撲や、他の動物にかまれた傷などが元になり、耳介に血液や漿液がたまることがあります。免疫の異常によって血管からもれた液がたまる例もあります。

患部に注射針を刺して血液や漿液を吸い取るか(穿刺)、患部を切開して液を取ります。その後、患部を圧迫するように包帯を巻き、再び液がたまるのを防ぎます。
さらに、止血剤や細菌などの感染を防ぐための抗生物質、炎症を抑えるための副腎皮質ホルモン薬(ステロイド剤)などを患部へ注入します。
また、頭のまわりにエリザベスカラーをつけると、犬が耳をかくのを防ぐのに役立ちます。液がたまらないようになると、耳介は多くの場合しわしわになって縮みます。
●外耳炎

褐色や黄色など、様々な色をした耳あかが外耳道にたまります。耳あかは水かワックスのような状態でにおいがあり、何かでふきとっても、数日後にはまたたまってしまいます。
外耳道の炎症の影響で耳介の皮膚までもが赤くなって腫れることがあり、そうなると犬はしきりに耳をかきます。アレルギー体質の犬では、全身にかゆみが広がります。慢性化すると、外耳道やそのまわりの皮膚が厚くなり、耳道をふさいでしまうことがあります。

黄色ブドウ球菌による細菌感染、マラセチアによる真菌感染が代表的なものです。重症のときには緑膿菌などの悪性の菌が感染しています。
アレルギーやホルモン分泌障害をもつ犬や垂れ耳の犬は、外耳炎を起こしやすい傾向があります。

菌を確認できたら、それに合った抗生物質や抗真菌剤を用います。
耳道に軟膏やクリームの薬剤を使う前には、耳毛を抜き、耳をきれいにぬぐって消毒します。(清拭)耳道内はデリケートな部位なので、清拭には刺激の少ない消毒液やオイルを使います。また頻繁に耳の掃除をすることで、かえて炎症を悪化させることがありますので注意してください。
慢性の炎症によって外耳道がふさがれた場合には、外科学的に治療(手術)することがあります。
外耳炎は慢性化しやすく、また再発しやすい病気なので、根気よく治療を続けることが大切です。
●中耳炎


外耳の炎症が中耳に広がるために起こります。多くの場合は外耳炎の症状も同時に見られるため、中耳炎だけの症状を確認するのは難しいのですが、難聴になります。鼓膜に穴があいていることもあります。

外耳炎に対する治療を行うと、外耳道から治療薬が浸透して中耳にも効果が現れます。ただし鼓膜が破損している場合には、薬液による外耳道の洗浄を行ってはいけません。
●内耳炎

耳の最深部にある内耳には、蝸牛神経と前庭神経があります。前者は聴覚の働きをもち、後者は体の平衡を保つ働きを持っています。そのため、蝸牛神経が炎症を起こすと、犬は難聴になります。難聴になると、飼い主が声を掛けたり近いところで大きな音がしたときでも、犬は鈍い反応しか示しません。ただし犬は徐々に耳が聞こえなくなっていくので、飼い主が気づかずにいることもあります。
前庭神経が炎症を起こすと、体のバランスを保つことができなくなり、病気の耳の方向に円を描いて歩くようになります。このとき犬は頭を病気の耳の方に傾けています。また眼球は左右に細かく揺れ動きます(振盪)。
重症になると犬は歩けなくなり、横になってゴロゴロと転がります。これは前庭炎になったときによく見られる症状です。このような前庭障害は突然現れて、飼い主を驚かせます。
前庭神経と蝸牛神経の障害が両方同時に現れることはまれです。

慢性の外耳炎のときや外耳炎の治療後に現れます。耳の打撲が原因で発症することもあります。しかし、原因がわからない例も少なくありません。外気圧や天候が関与しているという見方もあります。
高齢の犬は内耳炎になりやすいようです。まれに腫瘍によって起こることもありますが、多くの場合、原因がよくわかりません。

難聴の治療には効果的なものはありません。
前庭障害は、早期に副腎皮質ホルモン薬やビタミンB1を与えればよくなります。しかし、耳の腫瘍などの疾患が原因である場合には、それらの疾患への対応が必要になります。
●外耳道の異物

犬はひっきりなしに頭をふり、違和感がある耳の方を下に傾けます。患部側の耳が赤く腫れることもあります。異物のために鼓膜が破れることもあり、そうすると異物がさらに奥に入って重い炎症を起こします。
植物の種や虫が耳に入りこんでいるときもあります。それらは綿棒などでいじると、いっそう耳の奥に進入する性質があるので、注意してください。

体を洗ったときなどに、シャンプーや水などが大量に耳道に入り、炎症を起こすことがあります。それらが少量であれば犬が頭をふったり、布でふきとったりすることでとりのぞくことができます。
ときには、草むらで行動しているうちに植物の種や虫が耳に入りこむことがあります。

興奮した犬を飼い主が治療するのは困難です。水やシャンプーが耳に入った場合は、脱脂綿や綿棒などで耳を掃除します。しかし、虫や植物の種の場合には、それは逆に犬にとってきわめて危険な行為になるので、飼い主は治療を試みないでください。
●耳疥癬(ミミダニ感染)

ダニが寄生すると、外耳道には黒褐色の悪臭のある耳あかがたまり、犬はかゆみのためにしきりに耳をかいたり、頭をふったりします。

外耳道に体長0.5ミリほどの白っぽいミミダニが寄生して起こる疾患です。このダニは猫にも寄生しますが、人間の耳に寄生することはありません。
ダニは耳道内の表皮の部分にすみつき、耳あかや耳の分泌液を食べて生活します。ダニは耳に卵を産みつけてどんどん増えます。卵が孵化すると、幼ダニ、若ダニの時期を経て約3週間で成ダニとなります。
ダニが寄生している犬と何らかの形で接触すると、感染することがあります。

耳あかをきれいにとった後、駆虫剤を使ってダニを駆除します。駆虫剤で成ダニは死滅しますが、卵は生きていますので、卵が孵化するのを待ってから、再び駆虫剤を使用します。1週間に2〜3回駆除するとよいでしょう。
●耳の腫瘍

耳介や外耳道内にイボ状の腫瘍がいくつもできます。初期の小さなときには、他に特に症状は現れません。しかし、腫瘍が大きくなると、その一部は炎症を起こし、出血することがあります。痛みも出てくるようです。
外耳道内にできたものが大きくなると、耳道をふさいでしまいます。腫瘍が炎症を起こすと、化膿したり、脂がにじみ出ることもあります。

耳道内にたくさんあるアポクリン腺(汗腺の一種)が増えます。中高齢の犬に発生しやすい病気です。

良性で、大きさや数などが全く変わらないときには静観します。しかし、腫瘍が大きくなったり、数が増えたりするときや、悪性のものは切除しなければなりません。